シン・ゴジラ

それほど興味もなかったんですが、公開直後からTwitterのTL上で名うてのうるさ型たちが諸手を挙げて大絶賛状態だったので、情報があれこれ入ってくる前に、ということで8/1の映画の日に川崎で観てきましたよ。
で、たいそう楽しみました。少なくとも現時点での日本特撮映画のベストといえる作品だと思う。
以下、ネタバレ全開で良かったところと悪かったところ。

良かったところ

  • 圧倒的な破壊と暴力のカタルシス。この点に関しては、もうどれだけ褒めても褒めすぎということはないと思う
  • 現実の延長としてリアリズムで(前半部は)作られているところ。「未知の怪獣が現れた」以外のフィクションは極力排除されている
  • 画面も演出も演技も一流を揃えていて安っぽくないところ。「あぁ、ここお金なかったんだな…」と現実に戻される瞬間がない
  • 上映時間のほとんどが事件とその対処の描写のみに充てられており*1、描かれる事件の密度が非常に高い
  • アニメで培った圧倒的なカッティング*2と早口で詰め込まれたセリフ。おかげで上映時間に対する緊密度も非常に高い
  • これまでの怪獣映画で観たこともない「画」があるところ。特に、川崎の工場地帯でクルマで走りながらゴジラを見上げるカットは素晴らしい
  • 必要な「画」があることで、重たいセリフがあっても安っぽくなっていないところ
  • あからさまな「ご都合主義」は基本的に排され、かなり理詰めで作られているところ
  • ゴジラが「怪獣」としてキャラクター化されず、コミュニケーションできない破壊の化身として君臨するところ*3
  • 知っている場所がたくさん出てくる。特に、アクアラインはよく使うので冒頭がアクアラインなのは個人的にすごくキャッチー
  • たくさんのオマージュが(ほとんどの場面では)邪魔にならずに映画にちゃんと奉仕しているところ
  • 時事ネタ満載で、自覚的に「3.11以後の災害映画」として作られているところ
  • 事件に関係しない人間ドラマや、ヘタクソな芸能人キャスト、世界観ぶち壊しのエンディング曲など、「悪しき邦画の呪縛」を感じさせないところ*4
  • でんしゃ大活躍
  • 最後にちゃんと立ち上がるところ*5

悪かったところ

  • 圧倒的な破壊と殺戮のショーを見せた「荒ぶる神」が、一夜明けたら「人智を尽くせば対処可能な課題」にスケールダウンしてしまうこと
  • 前半と後半で明らかに映画のトーンが変わり、リアリティレベルが(意図的に)下げられるところ。最後まで前半のトーンで見せてくれれば超傑作だったのに…という憾みがある
  • カヨコ(石原さとみの役)。往年の東宝特撮名物「ヘンな外人」枠であり、エヴァのアスカやミサトの実写版だが、やっぱり一人だけリアリティがない*6
  • カヨコ以外でも、外国の絡むあたりは突然リアリティがなくなり、とても安っぽくなる。オマージュとも考えられるが、これによって映画の完成度、緊密度が下がっている*7
  • 肝心なところで流れる古い録音の劇伴。映画に没頭しているのに、「これって映画、作り物ですよ?」と言われたようで醒める*8
  • 紋切り型のセリフ。アニメならまだ許されるのかもしれないが、実写でやられるとキツイセリフがちょこちょこある
  • 表層的な政治批判、アメリカ批判。マス向けのエンタメとしては定番の構図だが、前半のリアリズムとの相性が悪く、映画の完成度を下げている。ここだけ現代じゃなく80年代っぽい

全体としては、人間ドラマに手を出さず、得意分野に特化してひたすら「叙事」のつるべ打ちにしたのは大正解。エヴァ破→Qに至る、キャラクターへの興味の希薄化、先鋭化した暴力表現もそのまま引き継がれ、非常にテンションの高いフィルムになっていた。あとは、上で書いたような「まだ残っている不得意分野部分」を切り捨ててくれれば(具体的にはあと20分削ってくれれば)、個人的にハリウッドの『コンテイジョン』や『ユナイテッド93』といった「9.11映画」に比肩しうる、「3.11映画」として世界にも問える一作となると思う。インターナショナル版の登場を期待!か?

*1:「事件:人物」比が極端に事件寄り

*2:実写では編集は基本的に編集者の仕事だが、アニメでは往々にして絵コンテレベルで編集後のカッティングを想定している。宮崎駿庵野秀明川尻善昭といった、優れたアニメーターが監督する場合はフレーム単位で完成形が「見えて」いるとか

*3:とはいえ、ラストはすごく象徴的にシンボル化されるのだが…

*4:東宝の取締役インタビューがWebに出ており、今作に限ってそれができた理由が赤裸々に語られている

*5:ヤシオリ作戦が順調に進んでいる間、「やばい!このまま上手くいってしまうと、ゴジラが首をだらりと下げた世にもかっこ悪い画で映画が終わってしまう!?」とずっとハラハラしていた。理屈ではおかしいが、本当に立ち上がってくれて(画の都合を優先してくれて)良かった

*6:また、あれほど日本びいきの日系人アメリカ大統領になれるとは、現時点ではとても思えない

*7:イムリミット型サスペンスにはなったが、「対ゴジラ」で徹底していたストーリーの軸がここで少しブレている

*8:これを避けるために、すべて古い録音で押し通すか、新録曲を低音質に加工しても良かったのでは