トップガン マーヴェリック

1986年公開の『トップガン』の、まさかの36年後の続編。とはいえ、ここのところブレードランナーの続編が出たり、デューンが再映画化されたり、あまつさえ同時期に『シン・ウルトラマン』も公開中なのでそれほどのインパクトはない。

本作における最大の特徴は、「作中においても現実世界と同じだけの年月が過ぎていること」だろう。もちろんこれは本作が実写映画でありかつ、前作と同じ役で前作主人公が登場している以上、ある意味では必然的な選択ともいえる。これも、近年では『男と女』の53年後を同キャストで描く続編が登場しており、ある意味トレンドと言えるのかもしれない。
その『男と女 人生最良の日々』はスタッフも前作と同じだったが、本作『トップガン マーヴェリック』は前作の監督トニー・スコットからしてすでに故人であり、別のスタッフによって撮られた続編となる。

監督ジョセフ・コシンスキーは『オブリビオン』でトム・クルーズと組み、作品にトム作品のオマージュを詰め込みまくった*1筋金入りのトムオタクだ。そして脚本のクリストファー・マックァリーはブライアン・シンガーの処女作『パブリック・アクセス』からシンガー監督の相棒として長らく脚本を手掛けていたクセモノ脚本家である。*2

その二人が組んだ本作『トップガン マーヴェリック』は、大味な前作をベースに緻密なストーリーと大胆かつ繊細な演出を両立させた、続編としてこれ以上ない作品となったのではないかと思う。同時期公開の『シン・ウルトラマン』が原作スキスキ!の稚気に溢れた作品だったのに比べ、作品との距離を取った上で丁寧に前作愛を語る、大人な作品といえる。

前作との距離感に関して、まさかの映画開幕早々に流れる前作のテーマソングと言える「デンジャー・ゾーン」の使い方からして唸らされた。この曲をクライマックスに持っていくこともできただろうに、それをせずに冒頭で「使ってしまう」ことで、前作を知っている観客にノスタルジーと、それとの決別とを同時に味わわせる演出はクレバーかつエモーショナルだ。

本作は『オブリビオン』同様に、前作を彷彿させるシーンが意図的にちょくちょく挟み込まれているのだが、それがイチイチ「現代ではこうなるんだよ」とアップデートされている。それ自体がテーマと濃密に絡み合う脚本は非常に完成度が高く、それまでのリアリティレベルをかなぐり捨ててまで盛り上げに盛り上げるクライマックスまで作品をどこまでも澱ませない。

演出も負けておらず、監督特有の美しい画と音のみで「語り切る」シーンが多く、大迫力のドッグファイトシーンとはまた別に、映画的な快感が随所に満ちたフィルムとなっている。*3
エリートパイロット「トップガン」自体が時代遅れになりつつある現代に、もはや化石のような主人公がガムシャラに「いまできる最善の事」を目指すストーリーはその一流の語り口によって、会社を追われ人生に疲れた中年男たる自分にも刺さる一作となった。

あまりに前作前提の作品であり、本作が単品の映画として今後語り継がれる作品となるかどうかはまだわからない。だが、本作のテーマは「いまできる最善の事をなせ」なのだ。それを最高の形でやり遂げたスタッフを称えたいし、いま色々見失っている中年同志はぜひ本作を観ていただきたい。出来れば音響のいい映画館で。

*1:オブリビオン - 映画と本とゲームで日記(はてダ移行版)

*2:おそらくシンガー監督作『ワルキューレ』でトムと知り合った彼は、最近ではトムのお気に入りとして『ミッション・インポッシブル』シリーズの監督を連続して務めている

*3:特に、一切のセリフを排したエピローグは特筆ものだろう