第9地区

超面白ェ!!(初週に観た勢いで書いた日記を今ごろアップしてます)
宇宙人親子の2人を除き、アタマ悪いヤツか悪党かその両方を兼ねたヤツかしかいないボンクラ度高めな世界観に痺れる。そんな世界のコミュニケーションはもちろん暴力。あれだ、初代『ロボコップ』や、ジョンくんの傑作『ゼイリブ』(あと『ヒドゥン』とかマッドマックスやハイランダーの2作目とか)といった、「SFだけど難しいこたぁなんもないから。セリフも聴かなくていい、すべては拳が決着つけてくれっから!」映画の系譜に連なる新たなるカルト作の誕生を祝いたい。いまの即物的演出スタイルと指向を持つスピルバーグが『未知との遭遇』を撮ったら的な。

この作品は、宇宙人を描いてはない。「他者」を描いている。グローバル化の問題をかなりストレートに描いている本作、テーマ的にはイーストウッドの『グラン・トリノ』にも近くみえる。立場逆だけど。イーストウッドが『グラン・トリノ』で「衰退するアメリカ」を象徴するロケーションとしてデトロイトを選んだように、「無知と偏見と差別と暴力が極まった街」ヨハネスブルグを舞台にした『第9地区』は、それだけでテーマを象徴するかのような画ヅラを提供できている*1

たとえば『ロボコップ』はオランダでキャリアを積んだバーホーベンが「うん俺アメリカよくわかんないし」っつってSFにしてしまったそうだが、逆に本作が長編初監督となるニール・ブロムカンプの場合は、テーマを渉猟したというより「新人監督が自分のよく知ってる地元をネタに映画を撮ったらこのテーマが入ってた」だけなのでは、という印象を持った*2
SFとしては一歩間違えれば失笑モノになりかねない賭だが、それは見事に成功したのではなかろうか。
ロケーションにひどく馴染んだ人間も宇宙人もまるで未開の土民かフーリガンかな低脳具合を見せつけ、それに対応するかのように*3、差別的でバカ、卑俗な精神を合わせ持った本作の主人公は、明らかに『殺人の追憶』『グエムル』や、クズが怪獣にヌッ殺されまくる『クローバーフィールド』の延長線上にある。「現在の世界(認識)のリアリティ」において、本作は一級なのだ。

この映画の鑑賞スタンスとしては、社会派マジメ映画ではなく、あくまで「SFだけど(中略)拳が決着つけてくれっから!」映画として観るのをオススメしたい。『ターミネーター』や『ヒドゥン』、『ハイランダー』がそうだったように「現実ほとんどそのまんまな世界にSFネタとSFガジェットを入れたらなんか大変なことに」なる映画、それが『第9地区』のだ。だから、無知と偏見と差別と暴力のはびこる「世界のリアリティ」は重要だが、「世界の問題」は映画では解決されない。解決するのは「物語の問題」だけだ。

なにかっつーと人間が爆散しまくり、人の命が軽々しく消費されるアクション映画なのに、意外と浪花節なストーリーなど、とにかく作りの若さ、強引なまでの力強い演出に痺れる。守りに入ったおっさんには眩しすぎるほど。
ポン・ジュノにも通じる「やり過ぎ感」と独特のリアリズムを武器に、今後ブロムカンプ監督がどんな映画を生み出していくのか。テーマに決着をつける「大人の」映画に移行していくのか。『第9地区』は去年の映画であるだけに、その動向に注目していきたい。

*1:実際にはほとんどそーゆー映画ではないのだが

*2:だからか、無知と偏見と差別と暴力の街ヨハネスブルグは、感動的なエンディングに至ってもなお、なんにも変わらない

*3:または、既存のSFアクションのヒーローたちが屈強な肉体とともに、困難を覆す知恵や、決して諦めないタフで高潔な精神を持っていたことの反動であるかのように