殺人の追憶

まるでデビッド・リンチ作品かなんかのような、なかなか衝撃的なオープニング。
これもまた、『ゾディアック』同様、「殺人のある日常」を描く作品で、こちらのほうがスケールが小さい「村」が舞台であるため、その自家中毒的な空気はより濃密かつ影響力も多大で、それだけに「事件が狂気を生む」構造はこちらのほうがより説得力がある。というか、現実の連続殺人事件をベースにしていること、「事件についての話」じゃなくて「事件を追う人についての話」であることなど、フィンチャーの『ゾディアック』は、この作品を下敷きにした可能性が高い。

ずさんな捜査、能力が低くやたら暴力的な刑事たち、事件に影響されまくる村人。これらをオフビートなコメディとも、皮肉なリアリズムとしても使いこなす手腕は凄まじい。基本的に観客が「そんなバカな!」と思った推理は演出上当たってそうに見えても絶対外す、とかのキャラクターとの距離の取り方、観客の期待をハズしつつ掴む演出は実に上手い。

で、これで低温度の映画だったらそのアザトイやり口がハナにつくところだが、主役二人の出会いが土手からのドロップキック*1だとか、頭の弱い容疑者(しかもその容疑がまたいいかげん)をメチャクチャに拷問するとか、表現がやたらめったら暴力的なので、ぜんぜん「頭でっかち」な映画になってない。

そして主役の一人は映画から完全に退場し、もう一人も事件からおりてしまうラストに、まだ突きつけられる「事件は終わっていない」という現実。
ポン・ジュノ監督のとことん人を追い詰める性格の悪さが、この映画を傑作たらしめていると確信した。
しかし、よくこんな映画が大ヒットするなぁ、韓国は奥が深いよ。『ダークナイト』でアメリカについてもそう思ったけど。

*1:このシーンだけでもこの映画は後世に残ると思う