パシフィック・リム:アップライジング

前作『パシフィック・リム』は2013年の映画だが、すでに現代のカルト・クラシックの地位を占めている。いまやオスカー監督となったギレルモ・デル・トロの爆発するオタク趣味と溢れるビジュアルイメージ、そしていつもと同じくシビアなドラマツルギーが、もはやその総本山である日本のアニメですらノスタルジーの対象と捉えていた「巨大ロボット活劇」を現代に向けた作品として造り変えることに成功していた。
そして、主に中国市場での大好評を受けて5年後に製作された本作は残念ながら、前作とは打って変わってウェルメイドなジャンルムービーに堕してしまった。
いま思えば、前作は「怪獣映画やロボットアニメでよく見る画」をどうすればリアルな実写作品として再構築できるか、を世界設定から脚本から演出までのあらゆるレベルから裏付けを試み、豊富なアイデアのつるべ打ちによってそれを力技で実現させていた。これは自らの企画に巨額資金を動員でき、脚本と監督を兼任できるハリウッドでもごく一部の、環境に恵まれた天才にしか許されない作り方だ。
あらゆるレベルで有機的に結合されたアイデアの塊(≒監督個人の世界観の発露)であった前作と異なり、本作は圧倒的にアイデアが足りていないのみならず、その内的な必然的にも乏しい。
前作はある種のバディムービーとして、設定レベルでは「ドリフト」、脚本レベルでは兄弟や親子の絆、演出レベルでは2人並んだコクピットのビジュアルによって「イェーガー乗り同士の信頼関係」が入念に表現されており、それはラストシーンの「キスしない2人」(≒愛情ではなく信頼で結ばれている)まで徹底され、テーマが昇華される構造となっている。
本作にはそういった深みはない。逐次的に出来事が起きるが、テーマ的な必然性に乏しく、ドラマは一向に深まらない。
また、前作ファンにサプライズを与えるためだろうが、前作の登場人物の扱いのぞんざいさには目を疑った。これ、本当にデル・トロが許可した脚本なのだろうか?*1これは単に加点できない、ではなく明らかな減点要因。続々登場する中国人俳優*2も含め新キャラクターにも魅力が乏しく、本当に前作の続編である以外のウリが見つからない。
中国資本のおかげか、はたまたCG技術のコモディティ化のおかげによってか、ロボバトルはより派手になって増量されているので、そこだけで楽しめる人なら映画館で観るのもいいだろう。個人的な印象としては、「ディズニーのアニメ映画の続編としてひっそり発売される廉価なセルスルービデオ」のような作品だった。

*1:一応、前作のギレルモ・デル・トロ監督は今回プロデューサーとして本作に参加している

*2:前作の日本推しはカイジュウと巨大ロボへのリスペクトからだが、本作の中国推しは出資が中華企業だから、なのが物悲しい