犬王

これまで湯浅政明監督作品は、その凄さはわかるもののキャラクターに感情移入しかねる部分が常にあり、その意味では「not for me」な作家だと思うのだが、今回は少なくとも主人公の一人である友魚には感情移入でき、ラストまできちんと付き合うことができた。アニメーションとしてのクオリティは非常に高く、特に「当時の技術レベルで可能な範囲で行われるイリュージョン」を駆使した犬王のライブシーンはおそらくアニメ史上において空前かつ絶後だろうと思う。
シンプルながらも歴史モノ/伝奇モノとしての重層的な意味付けを孕んだストーリーもよくできており、セリフを抑えて音楽で「語る」演出スタイル*1はすぐれて映画的で、今後湯浅監督の代表作の一つとなるのは間違いないと思う。
いくつか気になる点もある。
 都の人々が「新しい」として熱狂する犬王や友有(友魚)の音楽が、現代の観客にはもはや「ド定番中のド定番」として知られるクイーンやディープ・パープル風で、その「新しさへの熱狂」が体感ではなく頭で理解する感じになってしまっている点。また、そのクイーンの伝記映画である近年のヒット作『ボヘミアン・ラプソディ』に作品構造が似通ってしまっていること、そしてその『ボヘミアン〜』と比べ、楽曲が当時の犬王本人の曲ではない*2ために「伝記映画」としての感動が弱くなってしまっていることは、傑作アニメーションとしての枠を超えて「映画」として広くアピールするにあたって、小さくはないハンデとなる要素だろう。
とはいえ、こんな尖った作品までが全国の映画館にかかること自体、日本のアニメーションの多様性を示す好例であり、テーマの普遍性からも、今後も長く愛される作品となることを願ってやまない。

*1:西久保瑞穂監督の『宮本武蔵 双剣に馳せる夢』を思い出させる(あっちは浪曲だが)

*2:そもそもが歴史からほぼ抹消された人物の話であるために楽曲が現存していないわけだから、仕方がないといえば仕方がないのだが