動物と人間の世界認識 イリュージョンなしに世界は見えない

本邦の動物行動学の第一人者であった日高敏隆氏が、「動物にはこの世界がどう認識されているか」というおよそ答えが出ないと思われる難しいテーマを平易で丁寧な文章と豊富な実例で読者に紹介する入門エッセイ。
本書を手にしたのはたしか、ドラゴンなどの架空動物の進化論的な妥当性について考えていて、そこから『鼻行類』の訳者日高氏の著作リストを眺めていたところこのタイトルが気になって…という次第。発端からは少々ズレたが、これはこれで、リアルとフィクションを軽やかに横断させうるセオリーとしてかなり参考になった。
日高氏はユクスキュルの「環世界」という概念*1を敷衍し、「イリュージョン」なる「個体の主観的現実」を見るべきだと説く。そして、このイリュージョンは動物に限らず人間にもあり、そして人間に限って、現実を経由せずに主観的現実を変化させうると示唆するあたりは最高に面白かった。そう、まさに自分が本書を読むがごとく、人間は書物などを経由し他人の世界観(世界認識)を受け入れることで、それまでとは違った世界の見方、行動をすることがあるのだ。
その点を改めて気づかせてくれるだけでも、本書を読む価値はあると思う。動物における「ヒト」の特権性、その盲信派にも懐疑派にも幅広くオススメ。

*1:動物にはそれぞれ生得の知覚器官に応じた世界認識→それに応じた行動→行動によって世界から受けるフィードバック、以上のサイクルによって世界と関わっているとする概念。詳しくはこのあと出てくる『生物から見た世界』を。