ユナイテッド93

現代最高のサスペンス・スリラーの作り手であるポール・グリーングラスが、あの9.11を映画化する、ということで、姿勢を正して観ていたのだが…。
…すいません、前言撤回。やっぱりドキュメンタリータッチのノンフィクションこそが、この監督の本領かも知れない。おなじみタイトな編集とぶれまくる手持ちカメラ、誰も思想など語らない台詞によるガチガチのリアリズムが生み出す、凄まじい臨場感。実在の事件である、という点を除いても、呼吸ができないほどのテンションが観客の都合など無視してぶっ続け。これ観ちゃうと、『パーフェクト・ストーム*1とかもぅ心底甘ったれた映画にしか見えない。
監督の目的はとても明快だ。「観客をユナイテッド93便に乗せること」
彼の恐るべき手際は、それに成功している。そこには恐怖があり、サスペンスがあり、ヒロイズムがあり、人間愛もある。が、それは監督が意図して付け加えたものではない、あくまでも、現実にあったと信じるからこその「再現フィルム」なのだ。もちろん観る側はその迫真のリアリティ故に、その正確さには注意を払う必要はあるだろう。それだけの覚悟を観客に突き付ける、抜き身のような映画といえる。
「誰も彼もが自ら信じる神に祈る」シーンのみ、イギリス人監督らしいシニカルさを感じた。
内容について。
「ビルに激突する」というテロの手段が、誰の頭からも想像の外だった、という描写があるが、たしかに、この意味不明さ、不可解さこそが、この事件の対処を難しくさせ、犯行を不気味にし、アメリカ国民を恐れさせた元凶なのだろう、と読めた。管制センターの描写にも力が入っているが、それは、やはり「事件を引き起こした状況」は現在と変わっていない、とする、製作側のささやかな主張のあらわれか。
極上のパニック映画でもありながら、「最上級のスリル+現実の事件のみが持つ重さ」で、軽々しく観ることを許さない、入魂の社会派映画。『ボーン・アルティメイトゥム』もいいけど、やっぱグリーングラス版『ウォッチメン』が観たかったなぁ…。

*1:似たような「実話映画化」ネタなのに