ローズ・イン・タイドランド
ギリアム、やっちまったな…。
というのが鑑賞後最初の感想。当たり前だがギリアムはデビッド・リンチでもティム・バートンでもないリアリストなので、本物の不条理に身を委ねるわけでもなく、感傷で口当たりを良くしたファンタジーに昇華/逃避するでもなく。ただ、逐次的に、感性の赴くままに映像を紡いで見せるだけだ。
そして今回の素材は現実からリタイア寸前の少女と狂女とヤク中と精神障害者。ギリアムの前作*1『ラスベガスをやっつけろ!』と同傾向の題材、キャラながら、前作の主人公たちが一応ジャーナリストとして現実世界に適応しているのに対し、今作のキャラたちは、作中の言葉を借りれば「まさに『幽霊』のよう」に現実との接点が希薄だ。しかも、そのスレスレ繋がってる現実がまた見るのも厭わしいタイプのリアリズムだから、観客はこのひたすらインモラルかそうでなければグロテスクな映像を、「現実から完全に切り離されそうな危うさ」だけをサスペンスに、2時間ひたすら耐え続けなければならない。
そして訪れる、カタルシスのないクライマックス。誰も現実から切り離されず、誰も成長しない*2。どんな原作かは知らないが、『ラスベガスをやっつけろ!』同様、ギリアムは映像化しない方が幸せな作品をまたしても手がけてしまった*3のか。
テリー・ギリアムのフィルモグラフィが、ここで尽きないことを切に願う。