トゥモロー・ワールド

コレはひどい。なんでこんな邦題にしたのか。安直のうてんきな邦題に似合わぬ、ちらとも日が射さない陰鬱なロンドンを舞台に、大層へヴィでシリアス、タイトな超傑作SF。
巻き込まれ型SFサスペンスの形式をとりつつも、舞台設定は少子化移民問題*1など現代社会批評に満ち満ちていて、『1984年』『時計仕掛けのオレンジ』『未来世紀ブラジル』『Vフォー・ヴェンデッタ』といったイギリス管理社会映画の系譜にも連なる、ものすごく「いまここ」の映画になっている。日常の風景がそのままシームレスに戦場にもなる「リアル」は、これもイギリスを描いたイギリス人監督ポール・グリーングラスの『ブラディ・サンデー』にも似た味わい。
とはいえ同じドキュメンタリー調ながら、こちらはグリーングラス流カメラぶん回しカット刻みまくり演出とは正反対の、ぜんぜんカット切らない演出が貫かれている。キューブリックとか、シンドラーの時のスピルバーグを継承する、「その場に同席させ、目撃させる」演出。レジスタンスの車が不法移民に襲われ、駆けつけた警官を射殺するまでの超長回しカット*2の持続する緊張感が凄まじい。特にこのシーンは劇場で観たかった。
主人公が働いてる役所のシーン、みんながテレビ見てるところとか、あからさまな『未来世紀ブラジル』のオマージュが嬉しい。あと暴徒鎮圧用とおぼしきブルドーザーは『ソイレント・グリーン』か? 全体主義SFの系譜を継ぐ自負を感じる。これはもっと観られるべき映画。
しかしコレ原作P・D・ジェイムスだって!? どうせ変えるなら、このクソみたいな邦題を『ブリテン島以外全部沈没』に変えてみるというのはどうか。

*1:まさしく今日の日本そのもの

*2:このワンカット撮影、どー考えても欧米FPSに影響与えてる。CoD4:MWの初っ端とかマンマすぎ