川尻善昭ミッドナイトフェス

なんと川尻監督も今年監督30周年!ということで、特に新作のプロモだったりもしないイベントをやる、という話がTwitterで流れてきたのに釣られていそいそと行ってきましたよ。
ご多分に漏れず自分も『妖獣都市』で川尻監督にヤラれ、『獣兵衛忍風帖』で完全に信者になった口で、川尻アニメにオマージュを捧げた企画*1を公私混同で仕事にぶっ込んだりしてきた長年のファンのつもりだが、こういったイベントはたぶん初じゃないかと思う。肉声自体はたしか『THEコクピット 成層圏気流』のインタビューかなんかで聞いたことはあったはず。
で、マリオカートに興じる女房子供を置いてテアトル新宿まで馳せ参じたわけですが、当たり前だけど客層のおっさん率高!そしてもうその観客がルックスからしてオシャレとは無縁の曲者っぽさ。うーんさすがだ。
とはいえ、『D』がらみなのか女性の姿もチラホラ。エログロバイオレンスの作家と思われてる川尻氏だがラブストーリーの基本は外さないので、見た目のアクの強さに引かなければ結構女性好みな作品群なんじゃないかと思う。
上映タイトルは『妖獣都市』『獣兵衛忍風帖』『吸血鬼ハンターD』の3本+本邦初お目見えの超短編獣兵衛忍風帖BURST』が3本。BURSTは予告をYouTubeで見たときには「えぇ〜、これなんか違う…」とダメなファン丸出しの感想だったが、本編を見たら全然OKだった。とにかくテンポが抜群にいいのと、各短編をブリッジする首領的なキャラクターがチラッと出ることで全体の構造をなんとなく想像できるあたりがいい。こういった短編をあと10本くらい続けて浴びるように観たい、と思わせる不思議な中毒性のあるフィルムだと思う。
BURSTで自分も引っ掛かってて、スタッフ内でも賛否両論だったという人間バイク男「輪座」は、監督によると「あれは敵の中でも新参者で、自分の術を過信し獣兵衛に挑戦してあっさりやられる枠」とのことで、そういわれてみると、あの奇天烈ビジュアルもストリート系のようなルックスも腑に落ちる。これも監督のトークで語られていたが、実際に作られたのは3作だが、構想としては「獣兵衛十番勝負」のそれぞれ一エピソードとなっているそうで、確かに1/10ならじゅうぶん「アリ」だろう。1/3ではちょっと微妙だけど。
他にもトークでは面白いエピソードが山盛りだったので以下箇条書きに。川尻監督はアーティストというよりは職人肌のおじさん、という雰囲気で、トーク中に出てくるタイトルがみんなジャンル映画、ってところで、この方は間違いなく自分らの大先輩なのだと確信した次第。

  • 獣兵衛アバンのおにぎりのシーンの話。元ネタは『ダーティハリー』(初代)とのこと。これは言われてなるほど!と思ったが、確かにどちらも「軽食を食べながら敵を撃退」するシーンだし、そこでキャラクターの強さや性格を紹介できているところも同じ。アメリカのアウトロー刑事物でホットドッグだったものを、日本のアウトロー忍者物でおにぎりに換骨奪胎*2し、あまつさえ超メジャーな原典より鮮烈なシーンに仕上げる巧みさに痺れる。
  • トーク中に川尻監督から「物体Xが…」とか「ブレードランナーの銃で…」とか「レイダース以降のアクション映画は…」とか「ウォルター・ヒルザ・ドライバー*4にあって…」とかいう単語がポンポン出てくるが、それらが基本的に娯楽アクションの枠からまったくブレないのが素晴らしい。ホラーとサスペンスとアクションの職人。
  • 迷宮物語』への参加は、押井守の代打としてのオファーだった、とのこと。初耳だったが、聞けば確かに納得できる話だった。作品を見る限りでは川尻作品もまったく他の二本にひけをとらないが、たしかにあの時点でのネームバリューで、既に大監督だったりんたろう、マンガ界の最注目人物だった大友克洋と比べ、なぜ川尻監督?という疑問は残っていた。それが、当時アニメ界最注目人物だった押井守だと言われると確かにしっくり来る。てな話を聞くと、『ANIMATRIX』で最終的にピーター・チョンに代わった日本人監督、ってのも実はやっぱ押井守だったんでは?とか思ってしまう。ともあれ、『迷宮物語 走る男』を観たプロデューサーが『妖獣都市』の監督オファーを持ってきたそうなので、川尻監督にとって、ここが最大のターニングポイントだったのかもしれない。
  • 「構造」と「テンポ」へのこだわり。逆に、監督からは「テーマ」や「キャラクター」といった言葉はほぼ聞かれなかった。確かに、川尻作品はどれもその優れた構造と、アニメならではの圧縮されたテンポによって、観客を一気にエンドロールまで流し去る。ここ数年でアクション映画のテンポ感を劇的に変えたジェイソン・ボーン3部作について、監督がどう思っているか聞いてみたいところ。
  • 「獣兵衛のときは、これはスパイものの構造だ、と説明された」箕輪豊氏談。息もつかせぬアクションの連続のように思える『獣兵衛忍風帖』だが、実は情報の伝達、その時間的内容的ハンデに対する描写もかなり多い*5。鬼門衆の目的は何か?で登場人物たちは動いている。これも「構造」に対する拘りの一貫。
  • 「天才、山寺宏一の無駄遣い」これも箕輪氏談。なんでも『獣兵衛忍風帖BURST』は声優は使わず、最低限のブレスの演技だけ入れるために川尻監督が特訓(!)していたそうだが、監督とPDがそんな話をしていたところにばったり山寺氏が現れ、この超短編のブレスの演技のため「だけ」に収録に望んだのだとか。
  • 忍者モノについて「あれは一長一短が面白いんでね」と話されていたが、当たり前だけど流石監督わかってる!と嬉しくなった。単純に強い弱いじゃなくて、忍術ごとの長所と短所、それをどうストーリーに組み入れ、シチュエーションを整備して勝負をわからなく、面白くするか、が山風忍法帖のキモなので*6

『妖獣都市』『獣兵衛忍風帖』『吸血鬼ハンターD』とも、いま見ても超面白く久しぶりの完徹も乗り切れた。
もう還暦を越えた川尻監督も上映の最後に姿を見せてくれ、ちょっと感動してしまった。監督の今後にも期待!

*1:その企画の遠い子供がタイトーから出た縦シューの『HOMURA』

*2:しかも、「投げ上げてキャッチ」というホットドッグではできないアクションで時間軸をグッと圧縮し緊密度を高めている

*3:ちなみに獣兵衛の前作、OEDO808では札付きのワルが爆弾の首輪をつけている

*4:テールランプが残像として残る演出の元祖だそう。この演出は川尻作品以降アニメ界を席巻し、AKIRAで海外に認知され、GTAシリーズでTVゲームにまで波及した

*5:中でも目立つのは忍鳥を使うシーン

*6:「鬼門八人衆の最後があっけない。ご都合主義的」などという意見をネットではよく目にするが、お互い超常の技であるが故に「食らえば死ぬ」のが当然。そのため、必然的にバトルは一瞬で勝負がつく(ここで例外になるのが不死身タイプの敵)。お互い技を食らい続けて戦い続ける、ジャンプの漫画かなんかに毒されているのかと思う