太陽の王子 ホルスの大冒険

高畑、宮崎コンビの記念すべき最初の作品であり、大塚康生小田部羊一森康二など、のちのアニメレジェンドがこぞって参加した東映長編を代表する一作。高畑勲の初監督作でもある。
基本ストーリーは当時の東映動画らしい名作路線なのだが、のちの高畑作品と同じく、労働の喜びを謳い、庶民の団結を訴えるテーマは、やはり東映動画の労組幹部であった高畑ならでは、という感じはする。このテーマは白土三平カムイ伝』と共通しており、主人公ホルスの縄で斧を振り回すダイナミックなアクションも白土の『ワタリ』を彷彿とさせ、全体に白土三平からの大きな影響を感じる作品だ。ある意味、「漫画」が白土三平の登場によって「劇画」になったように、白土の影響によって「漫画映画」も「アニメ」へと変化させられた、その過渡期にある作品だったのかもしれない。大雑把にいえば60年代後半の「安保と全共闘の時代」を色濃く刻印したアニメであり、そのすぐ後に来る『宇宙戦艦ヤマト』や松本零士出崎統などの「アニメブーム」でかき消され*1、のちに高畑自身が『おもひでぽろぽろ』等で再興させた「イデオロギー色の強いアニメ」の最初の一作ともいえる。
大判の背景を縦横に使ったカメラワークや枚数をふんだんに使った巨大魚との格闘、若き宮崎駿が手がけ、のちになかむらたかしを岩石アニメーターに開眼させた岩男のアクション、実に高畑的な音楽シーンなど見どころも目白押しだが、語りたいことが終わった瞬間にカットが切れるなど、全体として余裕や落ち着きがない演出には窮屈さが目立つ。のちの高畑作品『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』、さらに時代が下った『火垂るの墓』『かぐや姫の物語』等のどっしりした演出は一朝一夕で獲得したものではない、ということがよくわかる。
映画としての完成度はそれほど高くはないが、当時の高畑、大塚、宮崎らの創作への剥き出しのエネルギーに痺れるアニメ。

余談だが、川尻善昭監督の『獣兵衛忍風帖』で主人公獣兵衛が崖の上に投げた刀を敵が掴んでいた、というシーンは本作のホルスとグルンワルドのシーンのオマージュだったことを発見。アニメ業界における影響の大きさを改めて認識させられた。

*1:この70年代に入ると白土三平ブームも急速に萎み、本作のスタッフでもあった林静一がガロの看板作家となったりしている