ジェイソン・ボーン

ジャンルのクラシックだったロバート・ラドラムの原作を現代に蘇らせ、スパイ、アクション映画に革新をもたらし新たなるマスターピースともなったジェイソン・ボーンシリーズ。
新作が出るたび自分も興奮させられてきたが、ボーン・アイデンティティーからボーン・アルティメイタムまでの3部作をもって主演、監督コンビが降板。彼ら抜きで作られた外伝(ボーン・レガシー)も微妙、とシリーズは実質終了したものと思っていた。
そこに待望の新作、しかも主演マット・デイモン、監督ポール・グリーングラスも再登板だという。これは見ねばなるまい!と勇んで劇場に向かったものの、本作、かつてのシリーズとテイストが大きく異なり、あまり楽しむことができなかった。
この作風の変化は、スタッフ面でいえば、これまでシリーズすべての脚本を担当し、外伝ボーン・レガシーでは監督も手がけた脚本家トニー・ギルロイの不参加が大きい。グリーングラス監督自らが手がけた物語は暗く陰鬱で、悲劇と悔恨のトーンが全編を覆い、娯楽アクションを見るテンションの観客を容赦なくダウナーな気分に叩き込む。
思えばドキュメンタリー出身のグリーングラス監督はこれまで、ダグ・リーマン監督、トニー・ギルロイ脚本コンビのエンタメ路線をどんどんリアル・シリアス路線に軌道修正してきた。ある意味本作は、その延長として必然的な作品だったのかもしれない。今後もシリーズを観ていくとは思うが、救いのない世界で修羅道を歩む主人公ジェイソン・ボーンに幸あれかし、と願わずにはいられない。

以下余談。
グーグル、ウィキリークス以降の世界情勢を反映し、今作にはエリック・シュミットやスノーデンを模したような人物が重要な役割で登場する。そのあたりはさすがスパイ組織に精通した監督ならではと感じるが、なんでもかんでもネット経由でできてしまうところなど、リアリティに欠ける描写が目立った。
ボーンシリーズの面白さ、サスペンスの妙は「敵の有能さ」に支えられる部分が大きい。その強大な敵に対してほぼ徒手空拳で挑むボーンだからこそ、サル顔な彼にストイックなヒーロー性が宿るのであって、敵がマヌケに見えてしまうとその前提が崩れてしまう。
シリーズは続行らしいので、スタッフのさらなる奮起を期待したい。