009 RE:CYBORG

そう、石森(石ノ森)ヒーローの現代リメイク、ってのは自分も確かに目があると思ってたんですよ。以前にも仮面ライダーの現代リメイクについて色々考えて、小説『仮面ライダー 1971-1973』を借りたり*1してたりしたところに、今回の「009」現代リメイク企画。ちょっと気になるじゃあないですか。
で、その仕上がりはまさかの幸福の科学系列の宗教アニメもしくは宗教アニメとしてリメイクした超銀河伝説…というのは大げさだがは、まぁ「RE:」ということで最近ハヤリのリ・イマジネーションとかなんかそっち方面の3DCGアニメ(+宗教てんこ盛り)。立体視じゃないほうを映画の日に鑑賞。
IG流の色彩で描かれるサイボーグ戦士、舞台はもちろん現代、しかも監督に神山健治ということで、石森(石ノ森)章太郎的なテイストはかなり後退。かわりに、X-MEN以降のアメコミ映画化作品に則った、現代のリアル社会にコミックヒーローを定着させるアプローチが採られている。

驚いたのは、石森ヒーローの通底音でもある「サイボーグ(マイノリティの超人類)の孤独と悲哀」をオミットしてしまったこと。たしかにこのテーマ、X-MENとモロかぶりではあるんだけど、それ抜きで石森ヒーローに見えるか、というとやっぱり見えないのも事実。有名な流れ星シーンはじめ、原作から超銀河伝説に至るまで、オリジナルへの目配せは随所にあるが、作品テーマにまったく関わってこないので単なるオマージュに留まってるのが残念。
代わりにというかなんというか、企画の発端だったらしい押井守のテイストが大量に作中に残っており、いや、「残っている」って表現は適切じゃないな、「作品を覆い尽くしている」といってもいい。オープニングの都市鳥瞰カメラにアオリでインするヘリにはじまり、そこに被さる聖書風のモノローグ、ペダンチックな長台詞、天使の化石に非現実的な少女*2、廃墟となった都市の独行シーン、そしてトドメに音楽:川井憲次。こいつはクセェー!押井のニオイがプンップンするぜぇッ!!という感じ。

単体の映画として見ると、映画版X-MEN的なリアル(現実)への馴染ませは確かに獲得していたが、悪役の今更さ(民間軍事会社を扱ったMGS4だってもう4年前のゲームだ)、アクションシーンがストーリーを進めるどころか止めてしまうバランスの悪さ、押井流の饒舌すぎるセリフ、サンダーバード的な立ち位置のギルモア財団の地に足についてない感じ…etcetc。総じて、「こなれてない」印象を受けた。
セリフに対して、必要なはずの画がないのも演出的に気になる。GSG-9教官となった004、中華チェーン店を経営する006の現在をセリフだけ説明するシーンなどは、「ああ、これってやっぱ低予算な企画なんだな…」といきなり現実のことを考えさせられてしまった。本来ここは「荒唐無稽な00ナンバーたちがどうやって現代現実社会に定着しているか」を画で観客に説得できる数少ないシーン(ついでに軽く特殊能力の紹介もできるハズ)なので、こーゆーところで手を抜かないで欲しい。予算ないならないなりで止め絵でもいいから。
また、同様に009の脳が強化されてる、という設定も、シナリオ展開上重要なキーなのだがこれもセリフで設定だけ説明されるという肩透かし。これこそアクションシーンで見せるべきだし、アクション表現上のオリジナリティにもなりえたはず*3
それらの意味で、かなり惜しい映画*4だったとも言える。理詰めで構築してある割には、それを徹底できてないあたりに色々な限界を感じる。
限界といえば、009のヒーロー補正が高すぎるのも気になった。一人だけ戦闘中に003と乳繰り合ってる*5し。あの設定なら本来、テロルに駆られる009vsそれを阻止する他のメンバーの闘いになるべきだろう。そしてなんやかんやで決着後にタイトルがドーンと出る(じっさいタイトルは最後に出てる)なら、ああ、今回は009がリーダーとして再生する(RE:の部分)話なんね…できれいに閉じれたはず。
そもそも作中最大のテーマが、手垢にまみれすぎてよっぽどの勝算が必要なテーマの筈の「人間だけが神を持つ」なので*6、そういう意味で2重にクラシックな題材に挑み、見事玉砕した本作。これを習作として、日本発エンタメの更なるブラッシュアップを期待したい。

*1:当時の感想→http://d.hatena.ne.jp/SiFi-TZK/20101229#p1

*2:ネタバレ: この少女も意味ありげに登場しつつ、結局のところ天使の化石と同じく押井感の増幅にしかなってないのが残念。ラストのシーンではホントはあの少女が増殖して各メンバーを迎えるとか、そういう使い方は出来なかったんだろうか、などと余計なことを思ってしまった

*3:しかしなんとなく、マンガの『東京大学物語』の「この間0.何秒」や、『ゴクウ』の「神の眼」みたいな、時間軸で扱うのが難しい演出になりそうではある

*4:それ以上に押井映画になっちゃってるのはアレだが

*5:余談だが、003が服を脱ぐシーンが省略されてたのはたぶんCGの都合だろが、そのせいで圧倒的にエロスの盛り上げが不足してた。あれでは観客側のテンションを飛び越して痴女に見える。これはサンジゲン社の今後の課題だろう

*6:あんなオチにしてしまった神山監督にはアラン・ムーアの『フロム・ヘル』を熟読していただきたい!