クラウド・アトラス

CMで気になったのでほとんど情報を仕入れず突撃。2時間50分!もあると知らなかったので品川で終電コース。
タイトルを直訳すると「雲の地図」だが、その題名どおり、なんというか、つかみどころのない映画だ。
テーマらしきものは言語化されない形で、ただ同じ役者が別の役で様々な時代に登場することで暗喩的に語られる。これは確かに「映画ならでは」の手法だが、こういうメタメッセージを観客に読解させる時点で(ただでさえ6つの時代が縦横に交錯する編集なのに!)、極端に客を選ぶ作品であることは間違いない。本作はドイツ資本で撮られたドイツ映画という側面もあるが、ヨーロッパ映画ともハリウッド映画とも違う、独特の雰囲気を持つフィルム*1になっている。
で。
一見支離滅裂の展開や長すぎる上映時間その他高いハードルを越えて食らいついた観客にとって、これはたいへんなご馳走といっていい。
練りに練られた脚本*2、史劇にコスチュームプレイに音楽劇にブラックプロイテーションにSFアクションに最新流行のポストアポカリプスにと様々なジャンルをガンガン横断する演出、『アバター』にも劣らぬ「観光映画としてのSF映画」の自覚にあふれたスケールの大きな映像。これほどの大作に関わらず制作費は1億ドル程度だそうで、これはVFXバリバリの『ソイレントグリーン』的ディストピアの未来シーンが全体の1/6だからか。意外とこの形式で予算を浮かす作品が今後増えるかも。
ウォシャウスキー姉弟の前作『スピードレーサー』の過剰な映像と内容のなさっぷりからまた一転、濃い映像と濃い演出、濃い脚本にひねったテーマと、前作以上にカルト作としての資格を十分に持っている本作。万人にオススメはできないが、気になる人はゼヒ!

*1:といいつつ、いくつかの作品を強く思い出したのも事実。『火の鳥』や『ハイペリオン』には特に似ている。

*2:特に、過去の黒人奴隷と未来で使い捨てられるクローンを直接オーバーラップする構成は社会派SFの始祖ウェルズを踏襲して素晴らしい。