私のこだわり人物伝 山田風太郎

司馬遼ネタは最初だけだったようで、今回は俺内山風最高傑作『警視庁草子』ネタ。
山風は「人間は善とも悪ともいえない」なんつー当たり前のことを言いたいがために何百冊を延々書き綴ったわけではない。『警視庁草子』は徹底した合理主義者*1たる川路と、その合理精神の果てにあるもの(=太平洋戦争)を描いた物語だ。そうでなくて、どうして本作が主人公出征で終わるものか。この番組スタッフはバカか。
冷厳な史実のみから必然的に導き出される人物像を心理的に深めていき、逆にその人物を歴史に当てはめる。そこに新たな発見がある。これは『時の娘』とも同じだ。その発見を、想像力でエンターテインメントに仕上げるのが山風の凄いところだろう。なぜこの番組は、山風は元々ミステリ作家だった、という肝心なところをスルーするのか。
あと、山風作品すべてに濃厚に立ち上る「死臭」に対して言及がない。来週の最終回で『太陽黒点』でも取り上げたら神なんだが、望み薄か。
「プロレス史観」ってのは初耳だがいい言葉だ。現代社会や歴史に対し、いい大人が意識的、無意識的にヒーローを作りたがり、ヒールを作りたがる傾向は揶揄されてしかるべきだろう。

*1:山風はミステリ作家だけあって、現代的な合理主義者に魅力を感じていたようだ。信長しかり、大久保長安しかり、川路もしかり