007 スペクター

ダニエル・クレイグ版ボンド4部作のトリとして撮られたと思しき現時点での007最終作。ファーストカットの延々長廻しで見せつけられる「死者の日」(日本でいうお盆みたいなお祭り)の緊張感から、なかなか引き込まれる。
前作『スカイフォール』がこれ以上ないくらいの「ヒーローのリブート」を鮮やかに決めてしまった故か、リブート直後の本作は「007の本道」を意識しすぎたのかどうか、シリーズ最大の悪役スペクターの再登場を含め、007のセルフパロディのような作品となってしまった。その意味では、旧版『カジノロワイヤル』のような作品、と言えなくもない。
スカイフォール』がルパンにおけるカリオストロ的な、主人公の過去をフックとした作品だったように、監督サム・メンデスらスタッフが続投した本作もやはり『スカイフォール』同様にボンドの過去にまつわるストーリーだ。これはどちらかというと、サム・メンデス個人の資質なのかもしれない。というわけで、今回は非常に小さい家族レベルの話が特に広がりもしないまま空間的スケールだけは無駄にでかくなって陰謀が世界を巡ったり巡らなかったりする。正直、お前ら家族の問題はお前ら家族同士で解決しろ、と非常に冷めた目でクライマックスを観てしまった。今回もアストンマーチンの使い方にヒネリがあったり、お約束の面白い使い方があったりはするのだが、やはりあらゆる意味で前作がイレギュラーすぎたのだろう。ある意味、メンデスが前作で参考にした傑作『ダークナイト』の凡庸な続編『ダークナイトライジング』の立ち位置に、本作も収まってしまったように思う。