河合隼雄全対話7 物語と子どもの心

さいきん河合隼雄づいてるので。
元高校教師で、日本にユング心理学をもたらし箱庭療法を広めた心理学者にして、文化庁長官も務めたという異色すぎる経歴の河合隼雄(故人)の根っこは「いかにして子どもの心を理解するか」にあったようだ。本書のあとがきで著者も「この本は特に多くの人に読んでもらいたい」と語っており、子どもの心に対して物語がどのような影響を及ぼすか、という著者の視点が本書の軸となっている。
対談相手を大別すると、プロイスラー長新太のような実作者と、児童文学者や哲学者などの評論家、あとは児童文学の版元、という区分けになるだろうか。宮崎駿との対談(実際には鼎談だったが)が読みたかったのだが、もっとも興味深かったのは昔話研究家の小澤俊夫との対談。
ユング心理学を学んだものの、その西洋的合理精神が日本人の心理に馴染まないことから独自の日本人観を模索する河合隼雄と、日本の昔話を詳細に分析し、アジアなどとの比較からその独自性を見出す小澤俊夫は非常によく似た問題意識を共有しており、この二人が繰り出す鋭い分析とそこから炙り出される日本人観は新鮮で、ぞくぞくする面白さがある。
特に、「となり」(となりの爺さんとか)が都市にのみ見られる得意なキャラクターであるとか、馬糞などの汚い話を脱臭して子どもに与えるとその反動で漫画が残酷になるとの予言*1、日本の物語として異質すぎる「桃太郎」への疑義、なにをもって「おわり」とするかの日本特有の感覚*2などは、現代がその延長にあることを痛烈に感じさせてくれる。
あとは、最初の興味対象だった宮崎駿は、ナルニアやエンデの諸作をまったく面白くないと断じる我侭ぶりは面白かったが、河合隼雄と問題意識の場所が異なり、あまり深い議論にならなかったのは残念*3。どちらかというと、本書で河合隼雄が好きな児童文学として言及している『ゲド戦記』『思い出のマーニー』『床下の小人たち』がこの本出版後の2000年代になって次々とジブリで映画化されていることからすると、どちらかというと鈴木Pのタネ本になっているようにも見える。
いわゆる「日本的エンタメ」の正体に迫りたい、本邦のすべてのエンタメ作家にオススメ。

*1:この対談は進撃の巨人デスノートバトルロワイアルもまだない80年代に行われている

*2:子どもが成長する自己啓発物語は西欧のもので、日本の昔話は共同体の維持や発展を持って「めでたしめでたし」とする、など。

*3:本書にはもっと支離滅裂な鼎談もあるが