ルポ 貧困大国アメリカ/II

基本的に同じテーマで、重複するところも多いので2冊まとめて。
いやー、実にうんざりさせる本だと思う。
日本、特に「改革」を掲げてアメリカ同様の「小さな政府」を推進し新自由主義に突き進んだ竹中平蔵小泉内閣、その目指した理想がかくもグロテスクなものだった、と明らかにされるのは、当時有権者だった誰も*1が、後悔と諦念を含んだ微妙な気持ちになるんではないかと思う。
この2冊の本で取り上げられる「新自由主義先進国アメリカ」の暗部は、大きく分けて以下の7つ。

  • 民営化された学校給食によって、肥満化が進む貧困児童
  • 災害対策の民営化のため、事実上の棄民とされた災害難民
  • 民営化がすすむ医療保険のため、簡単に病気で破産する中間層
  • 民営化された学資保険によって、ワーキングプア化する学生
  • 借金まみれの学生の希望として教育現場に浸透する、軍のリクルート
  • 民間軍事会社による、貧困層をターゲットとした戦争派遣ビジネス
  • 民営化され、貧困層の拡大を後押しし肥大化する刑務所ビジネス

一見して分かる通り、「民営化」による弊害、貧困層の拡大と、その貧困層から搾取することで肥大化するビジネスの台頭による「貧困スパイラル」が、ショッキングな数字と、ルポによる当事者の語りとであぶり出されてくる構成。
なにがうんざりさせられるかってぇと、この2冊の本であいだに起きたブッシュ→オバマ政権交代も、この貧困スパイラルの歯止めになっていない、という事実だ。このため息は、小泉内閣後の民主党政権に対する本邦の失望と、まさに軌を一にする。いちど最適化された経済システムは、それほどまでに強力なのだ。
逆に言えば、やはり貧困ビジネスであるサブプライムローン問題だけがこれほどまでにクローズアップされたのは、それが単に貧困スパイラルを助長するのみならず、搾取する側であったハズのウォール街にも手痛いしっぺ返しを食らわせたから、とも言える。
本書には、「数字」と「具体例」をつなぐ部分が少なく、同じテーマにまとめるための我田引水な論調も見え隠れするが、日本で起きている格差問題、TPP参加問題などについて、重要な視座を与えてくれる。
経済によるグローバリゼーションという怪物が、自己の所属する社会や生活にどう影響するか考えたい、すべての人に。

*1:自分のように小泉内閣を支持しなかった人間でも