ブラック・サンデー

政治的な理由でお蔵入りになったアレですよ。あの当時のジョン・フランケンハイマー作品としては、けっこう面白い。ただしアクション・スリラー映画として。
原作がいかにもトマス・ハリスらしい、人間性を否定するかのような底冷えするドラマだったのに対し、映画版は妙にエモーショナルで、その意味で原作者より監督の個性に寄り添った映画。原作の、黒く冷たい情念を抱えた主人公が格下げされ、ものすごくセコイ(だけに普遍的でもある)動機で行動し、こちらは主役格に格上げされたテロリストの女が、その感情を吐露する男にほだされるとか、原作準拠で観ちゃうとかなりありえねぇ展開が続々。ナニワ節度高し。
主人公不在になったスキマを埋めるように、中盤むやみに大活躍する「黒い9月」のリーダー*1がなかなかしぶとく、後段の死闘に期待を上乗せさせるあたりはなかなか上手い。
テロ映画としてみると、その準備段階を丁寧に映像化している点、それがちゃんとサスペンスとして昇華されている点で、『ジャッカルの日』の映画化と比肩するデキだと思う。飛行船がスタジアムに乗り上げるシーンはなかなかスペクタキュラー*2
1977年制作の映画としてみると、やはり『ダーティ・ハリー』(71年制作)的なある種脳天気なタフガイ指向はフランケンハイマーにして弱まりつつあり、『タクシー・ドライバー』(76年制作)や『ランボー』(81年制作)といった「米国社会に復讐するベトナム帰還兵モノ」のカテゴリに普通に収まってしまう。フランケンハイマーはそれを過剰に意識しすぎたせいなのか、本来、時代を越えるはず(事実、『羊たちの沈黙』は越えた)のトマス・ハリスのアンチ・ヒューマニストっぷりをすくい上げることができず、『地獄の黙示録』(79年制作)のような、題材を越えて禍々しい傑作になりえなかった。その意味で、これだけ面白い割には、非常に「惜しい」と思わされる作品。

*1:ミュンヘンオリンピック事件と直接的に絡めてる。ここが上映差し止め騒ぎの原因ぽい

*2:劇パト2の飛行船も、やはり『ブラック・サンデー』を意識してたようだ。刑事が離陸場に乗り込む展開しかり、へりでアプローチするカットのレイアウトしかり