ミスト

こんなヒデェ映画初めて観た!(←褒め言葉)
どーなってんだこれ。ホラーという形式を借りて観るものの生命力を奪っちゃおう、っつースペースバンパイアbyコリン・ウィルソンみたいな映画。黒ダラボン全開。人生を窓からぶん投げたくなる衝撃的なオチには開いた口がふさがらなかった。
不安→不信→恐怖→狂気→絶望と丁寧に段階を踏み、人間の心を蝕む暗黒面をねちっこく抉り出し、観るものの逃げ場を徹底的に、真綿で首を絞める入念さで塞いでいく脚本・演出には、まったく妥協が見られない。なんつーヒデェ映画。重要なので2回。
お話の構成は『宇宙戦争』『クローバーフィールド』によく似てる。どっからかやってきたバケモンが人類を蹂躙し、人間はどんどこ死にます。ラストあたりのバックボーンの展開は『宇宙戦争』とまったく同じなのだが、その直前の主人公の行動がアレなので、映画の受ける印象は180度くらい違う。これは死人が出るレベル。
クローバーフィールド』のバケモンの造詣がすげぇクトゥルーっぽいと思ったが、どーもそれはこの映画の原作を参照してたからなんではないかと思う。すんげぇ巨大なヤツから、中くらいのやら小さいのやら、小さいのでも刺されると死ぬとかもそう。あと、『サイレントヒル』『サイレン』がいかにこれの原作をリスペクトしてるかもわかった。この映画版もサイレンのシーンが怖いこと怖いこと。霧とバケモンの恐怖演出はそこが主題じゃないから若干控えめだが、ここぞ、ってところで台詞を一切なくすとか、脚本・演出の冴えは凄まじい。
この映画版はたぶん原作の中盤=「狂気」をメインに据えているので、テーマ的には『ダークナイト』と相当に近い位置にある映画といえる。つまり、犯罪映画で『ノーカントリー』が、アメコミ映画で『ダークナイト』が見せた「現代アメリカの不安」が、もっとも純化された形でここにある。
しっかし2008年って、ハリウッドにおいて記念すべき年になると思う。『ノーカントリー』のアカデミー賞を受けるように、『クローバーフィールド』から始まって『ミスト』、『ダークナイト』と、ジャンル映画から、ハリウッド映画の枠組みをぶっ壊すようなサタイア映画が立て続けに生まれた年として。パニック映画の『ポセイドン』はちょっと早すぎた(上にやや中途半端)のかもしれない。