マッドマックス 怒りのデス・ロード

あのマッドマックスがなぜか今ごろゲーム化!砂漠で水と油を奪い合うクルマMMO作ろうぜーとか言ってた俺の立場は!?
などと言っているうちにあれよあれよと4作目の映画が発表!しかも監督はジョージ・ミラー!!
ということで、イソイソと観てまいりました。
ジョージ・ミラー、自分にとっては不思議な監督だ。監督としてしばらく名前を見なくなったと思った頃、プロデュース作として発表されたのがあの『ベイブ』。
そのかわいいブタさんのファンタジーを観て、「うーん、ジョージ・ミラーも大人になってしまったのか…もうあんなイカれた映画は撮らないんだろうな…」と思った矢先、続編『ベイブ/都会へ行く』でまさかの監督復帰!しかも前作のテイストを残しつつも、デブのおばさんが飛び回るわ猛スピードで動物が駆け回るわ挙句猛スピードでクラッシュするわで、「やべぇ、このオッサン全然変わってねぇ!」と嬉しくなったものだった。
これに味を占めたのか、『ベイブ』のアニマトロニクスからCGへと表現を進化させた『ハッピー・フィート』もかわいいペンギンさんの映画…かと思えたがまたしてもさにあらず、実はファミリー映画、動物映画の枠をぶち壊す社会派ミュージカル映画(!)として、あの『カーズ』からアカデミー賞を掻っ攫ってしまった。もちろん、アクションシーンは凄まじいスピード&クラッシュのつるべ打ちである。
このあたりから、ジョージ・ミラーの映画に「構造」への視点が入ってくる。ジャンル映画であることに自覚的でありながら、紋切り型のストーリーを拒絶するタフさが、相変わらずのスピード&バイオレンスとともに作品に混在する、不思議で稀有なフィルモグラフィとなっていく。
そして『ハッピー フィート2 踊るペンギンレスキュー隊』を経て、彼は処女作「マッドマックス」に戻ってきた*1
びっくりするほど情報量の少ないひたすらの砂漠をバックに、本作の枠組みとなる「構造」はまさかの『柳生忍法帖』。
アウトローの凄腕主人公が清く正しい美女たちの逃避行を手助けしつつ、悪の軍団と対決する。『柳生〜』の千姫的なキャラクターにシャーリーズ・セロン、というあたりでこの映画の現代性が見えてくる感じだが、それにしても、砂漠ばかりの世紀末覇王伝説な世界でヒャッハーする野郎尽くしになりかねない映画に、「美女たちを手助けする雇われガンマン」の構造を導入するだけでアラ不思議、画面に潤いとある種のリアリズムが横溢してくる。現れては容赦なく死んでいくキャラの立ちまくった(『柳生〜』における)会津七本槍な敵幹部たち、僧たちに相当するババァバイカー軍団、クストリッツァの『アンダーグラウンド』もびっくりなどこでもついてくる楽団カーなど、出てくるキャラたちがみな(主人公以外)溌剌と生き、溌剌と死んでいく。
このあたりの「見た目でテーマからキャラクターからストーリーから展開からすべてわかる」バリアフリーっぷりは本当に見事で、ハリネズミのようなクルマをモリで突くとか、発火したエンジンを正面のドーザーで砂かぶって消火とか、スーパーチャージャーにガソリンを口で吹き込んで加速とか、メチャクチャなんだけど小学生にもわかる画的な納得度*2で、セリフに頼らずノンストップでアクションのつるべ打ちが楽しめる。
そのせいか主人公マックスのキャラが弱いが、このお話では助っ人なので今回はこれでいいのだろう。そもそもここまで社会システムが壊れてるのに「元警官」の話をちゃんとやろうとしても成立しないだろうし。
最初から最後までひたすらハイテンションで頭がすっかりカラになる映画だが、観終わってから考えると、ジョージ・ミラーの計算と円熟をとても感じるよく出来た一作。個人的には、「構造」へのこだわり、アイディアに溢れたアクションシーンのつるべ打ち、ベースが忍法帖、などの点で、本邦の川尻善昭監督の諸作を思い出した。現在大ヒット中だが、本当に久々に、アクション以外なにもない映画がこれほどヒットするのは心強い。すべての男性と男の子に、あと意外と女性にもおすすめ。

*1:この復活には、ハリウッド一連のポスト・アポカリプス映画の流行があった気がする。もとより、「マッドマックス」の活気に満ちた世紀末感は近年のポスト・アポカリプスものの諦念とは無縁だが。

*2:おかげでストーリー的な大転換もほとんど必然に見える