おおかみこどもの雨と雪

これも最近流行りの田舎アニメ、というか大本命。事件ドリブン*1ではない時点で、いわゆるジャンル映画、アニメ映画の枠からはみ出している。
こないだの『ももへの手紙』の感想で、母親のドラマが物足りないと書いたが、こちらはガッツリ母親のドラマだ。そして、細田守的完璧ヒロインが本作では母として君臨するだけに、なんか妙に居心地の悪い、管理されすぎた映画に見えてしまった。
「おおかみこども」である雨と雪がそれぞれ、狼と人として生きていくにあたって、ヒロインはただその背を押すだけだ。そこに母としてのエゴ、葛藤はあまりない。最初に狼男をスルッと受容したように、本作のヒロインはなんでも「ありのままに」受け止めてしまう。作中では「変わった子だから」と説明されているが、このキャラの執着と寛容の境目がさっぱりわからない。「理解できない母の愛」を描きたかったのかも知れないが、そこまでのキャラにも見えない。
また、この作品における「家族」に対する視点も気になった。3代続けて母子家庭になりかねないストーリーを「いい話」として演出することは、いつも強固な倫理を作品に課す細田監督的には問題なかったのだろうか。困難があっても受け入れてくれるパートナーさえ見つかれば…というメッセージが、なぜ「狼」を選んだ引き篭もりの少年には適用されず、「人」を選んだ美少女には適用されるのか。これはアナ雪が破壊した、王子様願望といったいどこが違うというのだろう。
とはいえたぶんこの作品、ストーリー的にはそれほど問題はないのだろう。演出、特にキャラクターの心理(およびその変化過程)の描写が相当に足りていないのではないかと思う。古くさいメッセージであっても、いまの時代それこそが改めて見直されるべきだ、という主張にも出来たはずだが、抑制された演出からは、「良かったね」以上のメッセージは得られなかった。個人的には、キレイなキャラクターと美しい美術による、キレイごとの建前アニメに見えた。これは売れるッ!

*1:事件があり、その問題や謎の解決を主眼とするストーリー進行のこと