マネーボール

実録スポーツもの、というとだいたい名選手かせいぜい名監督の知られざるなんとか、とか人間○○の真実、とかいうパターンがここんとこの定番だが、ここに来て「人間」ではなく「システム」を描く実録スポーツ映画が登場した。それが本作。
ここで描かれるのはゲームをプレイする選手ではなく、そのマネジメントの現場だ。限りあるリソース(ぶっちゃけカネ)をどう最大限に活かし、チームをビルドし、目標(ゴール)を達成するか。つまりこれ、米大リーグの実録モノであるのみならず、「プロジェクトマネジメント映画」でもあるのだ*1。「根性」といういわば無限*2のリソースが思わぬ出会いや友情や奇跡やら次から次へと呼び込む「古きよき」スポーツ映画と違い、本作のリソースは常に底値安定、奇跡に頼ったマネジメントはハナっから想定されていない。
その代償として、「勝率を上げることは出来るがここ一番の勝負はやはりミズモノ」という現実にドカンとぶつかってしまうところで映画が終わってしまうのだが、本作に関してはこれでいいのだろう。マネジメントの勝利がリアル世界の勝利とイコールなら、主人公のGM、ビリーでなくとも試合を観る必要なんてない。野球のロマンと筋書きのないドラマ性にバトンを返して、本作は幕を閉じる。それは、この『マネーボール』という映画プロジェクトの選んだゴールなのだろう。そのバランス感覚とギリギリのロマンティシズムに拍手を送りたい。

*1:ちなみに本邦にもマネジメントと野球をくっつけた怪しげな企画が同時期にあったがそれとはベツモノなのでご安心を

*2:と思われているがもちろん有限である