思想地図β2

いただきものを読了。譲っていただいたYさん、ありがとーございます。
でさっそくですが、けっこう残念な本だった。
震災後の希望を描く!みたいな大上段なテーマなのだが、とにかく編集長、東浩紀の慌てぶりばかりが目に付き、少なくとも自分が期待していたような、「震災以後」の日本とどう付き合うか、という深い議論とは違っていた。

これまでの自分の東浩紀の評価は「現状分析には深く同意するが、そこから導かれる世界観や提言にはまったく同意できない」というものだった。しかし本書では「現状認識に同意できない」ところまで後退した。
政府や東電に対する紋切り型の批判や、「対策をまったくしていなかった」、「いまも放射性物質を大量に大気にまき散らし」などの事実の取材を欠いた発言が連呼され、それをベースにした自説へと紙面は続く。正直、その説自体の価値を読み取る気力も出ない。
巻頭ページは特にひどく、「自分の観た現実」が共感されないことについての、批評家らしからぬヒステリックな反応が残念すぎる。感情にかられてか、あまりにも自己を特権化しすぎているように見えた。
そしてそれに続く東北改造論。
この並びも最悪だった。いつもの論壇批判の後に来るそれは、「気に入らない日常が壊れて欲しい」というどす黒い感情が震災によってやっすい決断主義=「グレートリセット」願望として表面化したかのような印象を与える。これは編集の問題でもあるだろう。
収穫もあった。
津田大介鈴木謙介瀬名秀明猪瀬直樹などは、感情を一般化することを避け、自分のフィールド外についての価値判断を留保しているように見えた。それが逆に、フィールド内での説得力に繋がってる。東浩紀竹熊健太郎の見境いない昂揚っぷりとは好対照。

チーム中川インタビューなど「科学」寄りの記事もあるものの、全体としては、震災や津波原発事故はこれほどまでに「不安」を日本の言論界に与えたのだ、と可視化する以上の役割を、この本には見出せなかった。