叛旗兵

忍法帖も一段落し、山風が明治モノを手がけ始めた頃の作品。
というわけで、かどうかは知らないが、明治モノ同様の短編連作形式になっており、けっこうなぶ厚さの割に、短編風ブツ切りエピソードが続くあっさり目の展開。
直江兼続に仕える、前田慶次郎など直江四天王を主人公に、直江家の婿入り騒動?を描く本書だが、通底しているのは「滅びの予感」だ。設定は関ヶ原大阪夏の陣のあいだのエアポケットとも言える時代(この間15年)で、その間に戦国の荒武者たちは一人、また一人表舞台を去ってゆく。
狂言回し的に登場(の割には山風の吉川英治趣味のせいで出ずっぱりだけど)する宮本武蔵佐々木小次郎は、途中の麻雀勝負(!)などで強い印象を残しつつも、やはり戦国の豪傑たちのような花道を与えてもらえない。
ここで描かれるテーマは「時代とともに退場する豪傑たち」であり、「武勇ではなく、権謀術数が問われる時代の到来」なのだ。
表面的には、剽悍極まる四天王のハチャメチャな活躍を描く楽しい小説なのだが、表題『叛旗兵』の意味が判明する鮮烈なラストから、その通底するテーマが立ち現れる読後感は、背筋がヒヤリとするほど冷たい。
マス向けの企画を立ててるとどーしても受け手に対するある種の「おもねり」が忍び込んでしまうものだが、久々に山風を読んで、「おもねり」と「サービス精神」は違う、と叱咤された気持ち。