トロイ

ペーターゼン渾身の傑作。3時間の長尺を感じさせない、ペーターゼンのフィルモグラフィ中でもベストではないか思われる出来。唯一、音楽のジェームズ・ホーナーだけは今回もダメだと思う。まんま『グラディエーター』じゃねーか。
それ以外は心配されたCGも問題なく、なにより(いかにもドイツ人らしい)地道な積み重ねでテンションをぐいぐい上げていく手腕は、齢60を過ぎたペーターゼンの完全燃焼を感じさせる。これ作ったあと死ぬんじゃないかとか要らぬ心配をしてしまうくらい。
主人公はブラピのアキレスなのだが、イマイチ人間味に欠け、圧倒的にドラマを背負っているエリック・バナヘクトルに存在感で負けている。むかし安彦良和が作った『アリオン』のアポロンのような、アクの強いキャラにした方が、あの決闘も盛りあがったのではないか。どちらかっつーとこの映画、ひたすら他人の幸せのために犠牲になったヘクトルの『男はつらいよ』かもしれない。
そう言えば本作、ほとんど伝説化していた話なのに、全然神話もファンタジーも感じさせない潔さは凄い。『グラディエーター』はリドリー・スコットの絵画指向が神話的なシーンを生んでいたが、『トロイ』はどこまでも、泥臭いまでのリアル指向だ。
戦闘シーンは『ロード・オブ・ザ・リング』ともちょっと違い、『ブレイブハート』に近い、これまたリアル路線。トロイの木馬ネタとアキレス腱ネタは「もう皆さん御存知でしょうから」とあっさりした扱い。締めはどことなく、ペーターゼンの出世作Uボート』を思わせる。