キングスマン

X-MEN:ファースト・ジェネレーション』は面白かった。人種差別のメタファーであるミュータント弾圧からX-MEN結成に至る流れを、重苦しい受難のドラマではなく、ある種能天気な青春ドラマとして演出してみせ、その時代背景を当時流行のスパイ映画の形で見せるセンスに感心した。
その監督マシュー・ヴォーンの新作とあれば、重い腰を上げざるを得ない。(キック・アスは未見)
X-MENであれほどの「スパイ映画愛」を見せつけた監督、コリン・ファースのミスマッチ気味なキャスティングを活かしたちょっとひねくれた楽しい映画なんだろう…と勝手に思い込んで劇場に向かった俺を待ち受けていたのは、モンティパイソンもびっくりの全方位ケンカ売りまくりな超絶ブラックな青春映画だった。
トレインスポッティングロジャー・ムーア時代の能天気な007、ショーン・コネリーの「作られたダンディズム」を繋げるテーマ。イギリスに代わって世界を支配する、無学とITで勘違いしたアメリカ野郎(悪役のモデルはスティーブ・ジョブズであろう)への容赦ないdisり。
まさしく、007スカイフォール以降の「英国とスパイ映画」の再生を描く一代叙事詩であると同時に、「イギリス的なるもの」への愛憎渦巻くブラックユーモアまみれな特濃ラブレターなのだった。
以下、本作『キングスマン』で容赦なくぶった斬られたものたち。

  • イギリスを相変わらず牛耳るオックスブリッジの紳士階級
  • その反対、野蛮で粗野な労働者階級
  • 最近の007
  • 勘違いした偽善的な成金アメ公
  • 反知性的なカルト

ブラックなセンスが一般的な日本人の許容範囲を軽々と越えているので、人によっては受け付けない人もいるかも。
とにかく人間が殺しあい、勢いあまって○○○まで殺ってしまうこの映画、「原作がカルトなアメコミ」であること、「スパイ映画へのオマージュ」に満ちていることを共有する『シン・シティ』や『スパイキッズ』のロバート・ロドリゲス作品と比べてみても面白いかも。
画ヅラだけ見るとお気楽アクション、お話だけ見るとかなりハチャメチャな作品なのだが、それらが毒のあるセンスでブレンドされて醸し出される空気は唯一無二。将来、『ファイト・クラブ』や『処刑人』のようなカルト作品として長く語られる作品になる気がする。
現代イギリスのエンタメ最前線として必見。とにかく観れ!