機動戦士ガンダムUC 6〜9巻

なるほど、この話ってオードリーがまったくヒロインとしてなってねーなー、と思ったが、それも計算で、ヒーローはヒーローとして、ヒロインはヒロインとして、それぞれ成長していく話、なんね。リディ、マリーダはそれぞれバナージ、オードリーの写し鏡、「もう一人のあり得たヒーロー、ヒロイン」として描かれているのか。上手いな。

とはいえ、イスラム狂信者が大暴れする一昔前のハリウッド映画みたいな6巻は完全に蛇足。破壊のカタルシスはあるが、視点が分散されすぎ、冒険小説としては完全に破綻してしまった。せめてロニとの出会いや砂漠行にもう少し長さと意味があれば…。まぁvs自然を描く作家ではもともとないんだろうけど。

7巻では、ジンネマンが完全に仙石に。やっぱこのオッサンが主役か。空中要塞とはいえ、限定空間のシチュエーションも含め、相も変わらぬいつもの福井小説として面白い。雑多な旧型MS群が最後の花火を上げるのも、ガンプラ的なセールスポイントであると同時に、ライアルやバグリイに通ずる「くたびれたおっさんたちが使い慣れたポンコツと経験だけで正規軍を圧倒する」定番パターンが踏襲されていて嬉しい*1。燃える。前巻の反動か、(主役が変わってしまっているが)冒険小説密度が高い。

8巻ではやっとバナージが主役に戻ってきたが、もう結局こいつただの噛ませ犬確定でイイよね?なフル・フロンタルに阻まれ、イマイチ活躍もできず、かわりにオードリーの成長が描かれたり。そしてリディがひたすら死亡フラグを積みあげる一方、意外にも、アルベルト・ビストも「あり得たバナージ」としての顔を見せ始め、「精神的に高潔すぎ、うまくいきすぎる主役少年に対する羨望と反発」を表明する。このへん、汚れまくった報われないおっさん仲間である読者(俺)にはかなりヒットした。ところで、カイはなにしに出てきたんだろう。

そして9巻。
死亡フラグ臨界のリディにまさかの逆転劇! この構成は上手いなぁ、そーゆー手があったか。登場人物を全員集合させ、クライマックスにまとめ上げていく豪腕は相変わらずだが、やっぱりちょっと今回、人が多すぎたかも。初代ガンダムのとき、ほとんどドラマに参加できなかったハヤトとフラウは今回も扱いがアレだ。箱の正体も決まったようで、世界を破壊する*2最終兵器も登場、あとはニュータイプ論の決着をどうするかだが…アレレ!? すでに逃げる気満々だなぁこれ。どーすんだ!

*1:このへんの感覚は、富野由悠季より高橋良輔作品のテイストに近い。だからガンダムに見えず、ダグラムに見える

*2:ユニバーサル・デストロイヤーの後継を自負するかのような