スパイキャッチャー

5分の4くらいまで。これは面白い!!!
電波技術の専門家としてMI5に入った著者が、現場をこなすにつれ組織を動かす立場になり、終わりのほうになると完全に防諜組織の要人として振舞ってる。
筆者はMI5、MI6ともにはびこる情実人事に翻弄され、しかもこの本の後半部分、MI5中枢に巣食う2重スパイの正体に迫るあたりは、イギリスを事実上牛耳っているオックスブリッジの暗部、その隠微な人間関係に分け入っていく内容で、実際、この本が英国政府から出版差し止め訴訟とか起こされた理由の多くは、実は(国家機密うんぬんの方ではなく)ココにこそあるような気がする。歴史ある大英帝国を動かしているのは、相応に古臭く保守的な人間たちなのだ、ということで、このへんの組織の腐敗に関する記述はまるでどっかの会社のようで、なんか胃にもたれてきた。
ちょっとした事件で刻々変化する各国の諜報組織、防諜組織とのパワーバランスにより、イギリスの諜報、防諜活動の対象が目まぐるしく変化するのが面白い。これこそ、スパイ世界のダイナミズムなのだろう。あと、『ボーン・アルティメイタム』ってなんでNSAとかが出てこないんだろう、と思ってたら、つまり「身内の問題だから」あくまで身内内で済ますために国内でCIAが活動している、ということらしい。あとこないだ読んだ『闇の中へ』がまさにこの本を土台にしていて*1、実はけっこう時事ネタ小説だったのか、と気付かされたり。
技術的な面やそれに伴う情報流通スピードの変化は大きいだろうが、それでも、現代におけるスパイを描く場合の資料として超一級。

*1:MI5とMI6の関係や、最大の敵の位置づけなど