自分探しが止まらない

読了。
面白かった。このテの本を読むのは久々だが、カミさんが観てるのを横から見て不思議でならなかった「あいのり」論とか、まさに「そうそう、これが読みたかったんだ!」という感じ。
素材の選び方も上手く、宮台真司他の「サブカルチャー神話解体」以来の、ちゃんと時代の空気を感じられる一冊になってる。はてなが生んだ教祖こと梅田望夫とか。なるほど、作者の速水健朗氏って「犬にかぶらせろ!」の人だったんね。
で。
題名こそ「自分探し」だが、実際には「日本の現代社会に浸透するニューエイジ思想」の本、と言っていいと思う。すべての自分探しはローマならぬニューエイジにつながって(からめとられて)いる、というか、「自分(の未知なる可能性)探し」自体が、ニューエイジ思想の産物である、と喝破している。おはようからおやすみまでならぬ学校から職場からTV映画漫画アニメからストリートまで。このへんは本当に小気味よい。
が、後味はかなり悪い。
理由は、この仕事や学業のオンオフや社会階層なども一切問わない「ニューエイジ包囲網」があまりに強固で、安易に反発したりしようものなら、ヘタすると社会的に抹殺されかねないほど浸透済だから、なのだろう。妙に引っかかる最後の「〜と信じている。」という結び、個人的にこの本ではギリギリと思える「信じたい」よりも強い言葉に、「無理やりにでもそう言っとかんと終われんだろーが!」ってー葛藤(って誰と誰の)があったんでは、とか邪推してしまう。ある種の人々には絶望の書かも。例の加藤とか。
細かいところ。
「可能性を引き出して成功するマンガ」は、個人的にはやっぱり『スラムダンク』を挙げて欲しかった。アレがマンガをこんなふうにを変えてしまった、と俺は思ってるんで。『トライガン』とか。あと、『スラムダンク』のベースには『ドラゴンボール』の「冒険活劇」から「際限のないバトル」への強引な路線変更と、その歪みを後付けで吸収する「スーパーサイヤ人」という先天的可能性(資質)を引き出すためのドラマ構成*1、このへんが大きな影響を与えていると思う。作家レベルなのか編集レベルなのかはともかく。
あと映画。これも後付で「ミディ・クロリアン」とかいう先天的資質を出してきた『スターウォーズEp.1』。そのレールを敷いている『ダンス・ウィズ・ウルブズ』や『ラスト・オブ・モヒカン』『セブン・イヤーズ・イン・チベット』などの「異国スピリチュアル」映画の系譜。これはもちろん『ラスト・サムライ』にも続いている。確かに「自分探し」にこだわるなら『ザ・ビーチ』が正解なんだろうけど、この本の流れからすると、こっちの方が本流じゃないかなぁ。それとも『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』の方か?
てわけで、次は「ニューエイジと戦い続ける(た)人たち」とかいう本を期待。なんてワガママ。

*1:この路線変更の間に、際限なく「強さ」だけが上昇するRPGドラゴンクエスト』のキャラデザをやってるのが興味深い。TRPGの創世記とヒッピー文化、ニューエイジの関係も、掘ったらなんか出そう。