ライフ・イズ・ミラクル

全体の空気は、強いて言えば『アリゾナ・ドリーム』が一番近いと思う。『アンダーグラウンド』『黒猫・白猫』的な躁病感覚は序盤のサッカー、病院のシーン以外に乏しく、サバーハ登場の中盤以降は影を潜めてしまう。
いくつか気になった点。

  • ヴィエラークの『ダーク・ブルー』に異様に似ている
  • 実話だから仕方ないが、ちょっと論理に飛躍があり、それを台詞でフォローしている
  • クストリッツァ作品なのに、普通に展開が読めてしまう
  • クストリッツァ作品にCG!?

前作『黒猫・白猫』は恋愛要素はあったが、恋愛ものではなかった。対して本作は直球の恋愛もの、のハズなのだが……。やはりクストリッツァにとって、男女間の愛はあくまで一形態にすぎなかったようだ。
アンダーグラウンド』や『黒猫・白猫』に比べると幾分落ちついてしまい、カオティックなパワー*1にやや欠ける本作。だが、開始数分で分かる、まさしくクストリッツァな「リアルにして滑稽」な空気と、『アリゾナ・ドリーム』のファンタジー感覚*2とを兼ね備え、見事に主人公の人生を切り取ってみせた。その複雑にして膨大な、言語化できないエモーションの洪水は、まさしく映画の醍醐味そのものだろう。
主人公の痛みが分かるであろう、あと5年くらい経った頃にまた観てみたい。

*1:クストリッツァの演出のすごいところは、ベクトルを決定していないのに、巨大なスカラー量を操るところにあると思う

*2:いや、本当はシャガール譲りか